日本に基礎研究が根付かない訳

政府が唐突に、iPS細胞の備蓄事業予算10億円を打ち切ると山中教授に通達した。山中教授は「いきなり支援をゼロにするのは相当に理不尽。公の場での議論もなく、理由も分らない」と憤っているという。内閣官房からの一方的な通告で、文科省も蚊帳の外とのこと。政府は12年度にiPS細胞の研究全体に10年間で1100億円拠出することを決め、その中で備蓄事業も支援してきた。備蓄事業には既に90億円を注ぎ込んでいる。患者自身からiPS細胞をつくって移植すると、数千万円の費用と数カ月の時間がかかるので、重篤な患者では間に合わない可能性もある。そこで、献血のようにあらかじめ複数の型のiPS細胞をそろえておく備蓄事業が創案された。だが、研究は難航しゲノム編集した6種類のiPS細胞で日本人のほぼ全員をカバーすることにした。ところが、iPS細胞から移植用の細胞をつくる企業の側は、1種類のiPS細胞だけを使い、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える方が事業として成り立ちやすいと判断したようだ。研究者も企業も政府も、それぞれの立場があることは分かる。だが、国を挙げての研究が、当事者同士の議論も無く一方的な内閣官房の判断で中止されるのは納得がいかない。これでは日本に基礎研究は絶対根付かない。