植物を愛でること

キャベツ丸ごとを包丁でバサッと切ると、隣に置いたキャベツが「ギャッ」と悲鳴を上げるという話を聞いたことがある。当時は「まさか」と思っていた。ところが、意外に嘘でもなさそうだ。埼玉大の研究者らが、植物の細胞が傷つけられた時の情報伝達システムを解明し科学誌Scienceに発表した。従来から、植物は虫に食われたり葉をちぎられたりして「身の危険」を感じると、苦味物質や虫を遠ざける作用を持つ物質を合成し、放出することが知られている。脳や神経を持たないはずの植物が如何にして危険を体全体に知らせるのかが疑問だった。研究によると、植物の細胞が傷つけられると、その情報はカルシウムイオンの波として全体に伝わるという。このカルシウムイオンのシグナルを引き起こしている物質も特定した。傷ついた細胞から流れ出たグルタミン酸が近くにある細胞のグルタミン酸受容体を活性化し、痛みのシグナルを連鎖的に伝える。グルタミン酸は人間や動物の神経伝達物質として使われている物質だ。植物は愛でて労らなければならないという気持ちが湧いてきた。