変幻自在な共謀罪

共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が、明日衆院で可決される見通しになった。政府は、テロ防止のため国際組織犯罪防止条約を締結するために必要な法律だと主張している。現在この条約に187カ国が締結し国際犯罪への対応を協力している。共謀罪は国際犯罪に対処するには必要な法律であることは間違いない。だが、一方野党は、既にハイジャックや化学兵器の使用などには犯行の前の段階を罰する予備罪もあり、わざわざ法改正しなくても条約は締結できると主張している。仮に共謀罪が成立してもテロ対策に役立ちかには疑問がある。更に恣意的に運用されることにより一般人も対象になると反対している。要するに議論が噛み合わないのだ。互いに思っていることを主張するだけで、子供の喧嘩だ。特定の国の人権状況などを調査・監視・公表する国連特別報告者で「プライバシー権」担当のジョセフ・カナタチ氏が、懸念を表明する書簡を安倍首相に送った。カナタチ氏の指摘は以下の通り。法案中の計画や準備行為が抽象的で恣意的な適用の恐れがある。対象となる犯罪の幅が広過ぎる。どんな行為が処罰の対象となるのか不明確で、刑罰法規の明確性の原則に照らして問題がある。プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある。法案の成立を急いでいるため、十分に公の議論がされておらず、人権に有害な影響を及ぼす危険性がある、と。だが、それへの回答は菅官房長官のカナタチ氏への強い抗議。カナタチ氏は「抗議は怒りの言葉が並べられているだけで、指摘に対する中身が全くない」と反論。更に「日本政府は実質的な反論をしてこない。これだけ拙速に、深刻な欠陥のある法案を押し通すことは絶対に正当化できない」と指摘した。もし野党にカナタチ氏がいれば、共謀罪はすっきりとしたスリムな法律になっていたに違いない。