消防庁長官の不作為

渋川市の消防隊が脚光を浴びている。出火元から周辺建物への被害の広がりを表す「延焼率」が、全国平均の約20%に対し2%という低さにあるからだ。連日全国から消防関係者の視察が殺到しているとのこと。「延焼率」が低い理由は、消防隊員全員で、少ない人員で如何に効率よく消火し延焼を防ぐかを研究し、実践に生かしたからだ。消防隊員が少なくかつ高齢化しているのは何処でも同じだ。一つは動作の時短。ホースの出し方から伸ばし方、防火靴の履き方まで無駄な時間を徹底して省く時短に取り組んだ。もう一つは消火器具の工夫。年配の隊員でも走りながらホースを伸ばせるよう車輪が付いたキャリーバッグを独自開発した。更にシミュレーションの徹底。消火栓や防火水槽の設置場所の把握だけでなく、管の太さや水圧、蓋の形状まで把握しており、通報が入って地図を広げた時点で、最適な消火方法を瞬時にシミュレーション出来るという。渋川市の消防隊が延焼率低減に取り組んだきっかけは、2009年に入所者10人死亡という日本高齢者福祉史上最大の惨劇となった老人福祉施設「たまゆら」の火災事件とのこと。この施設は違法建築で、当時施設経営者の責任が厳しく問われた一方で、後手後手の日本の老人福祉政策への風当たりが強まった事件でもあった。違法性を非難したり、政策の遅れを嘆くことは簡単だ。ところが、渋川市の消防隊は、二度とこのような惨事が起こらぬように消火技術向上に取り組んだ。簡単に出来そうに見えて、なかなか出来ない努力だと思う。全国からの視察が絶えないという。それはそれで良いのだが、総務省消防庁が率先して渋川方式を全国に広めれば、日本の消火技術は飛躍的に向上する。消防庁長官は一体何をしているのだろうかと思う。