空の鉱物

ツタンカーメンの墓で発見された短剣が、鉄隕石から出来ていたとの調査結果が発表された。ツタンカーメンの墓は今から約百年近く前に考古学者ハワード・カーターにより発見、発掘された。王墓としては極めて珍しいことに3千年以上の時を経ても殆んど盗掘を受けていなかった。ツタンカーメンと言えば、黄金のマスクが有名だ。数々の副葬品がほぼ完全な形で出土している。その中の一つが「ツタンカーメンの短剣」。棺の中から発見された2本の短剣は、一つは金、もう一つは鉄。だが、この鉄が研究者たちを悩まさせていた。古代エジプトには殆んど鉄製品は存在していなかったし、かつその鉄の短剣は3千年以上経過した現在でも錆の痕跡が全くないからだ。この度蛍光X線分析装置で元素分析をした結果、高含有量のニッケルとコバルトを含んでいることを突き止めた。しかも、その鉄の金属組成が16年前にエジプトで発見された鉄隕石と一致していたとのこと。論文によると、エジプト人たちは紀元前13世紀頃から「空の鉱物」と訳せる象形文字を使っていたという。古代エジプト人たちは珍しい鉄の塊が空から降って来る現象に気づいていたに違いない。しかも、それを掘り当てかつ加工していたのだ。古代エジプトでは天文学が発達していた。それを基に正確な暦を作り、農業や儀式に活用していたことは有名だ。更に地球上のものではない「空の鉱物」をも使いこなしていたとは、古代エジプトにはロマンが満ち溢れている。