明日の記憶を取り戻せそうだ

アルツハイマー病と言うと、荻原浩の小説を映画化し渡辺謙が主演した「明日の記憶」を思い出す。若年性アルツハイマー病の残酷さを見事に描いているし、撮影後、ガンで満身創痍の渡辺謙自身が映画の普及とアルツハイマー病への理解を促進するため全国各地を奔走したことが胸を打つ。アルツハイマー病とは、アミロイドベータの蓄積により脳組織が破壊され記憶そのものが無くなっていく病気と理解していた。だから「明日の記憶」とは今日書いた本人のメモが、明日は無くなる記憶として残るメモという意味だと思っていた。ところが、理研の利根川脳科学総合研究センター長らの研究グループが、マウス実験でアルツハイマー病で失われた記憶を、脳神経細胞を刺激することで取り戻すことに成功したとのこと。つまりこの研究は「アルツハイマー病とは記憶が破壊されることではなく、記憶は正常に形成し保存しているが、想起できなくなっている可能性がある」と言う成果が得られたいうことだ。記憶領域が消失することと、記憶領域は存在するが思い出せないということは、全く別次元の世界にある。記憶領域が消失してしまえば、如何なる努力をしても記憶を取り戻す事は不可能だ。だが、単に思い出す機能が欠如しているのであれば、手の打ちようはあるはずだ。まるで、言葉の言い回しのように聞こえるかもしれないが、この研究は天と地をひっくり返す程の価値があるように思える。アルツハイマー病患者は90万人、軽度の症状を含めると400万人にも及ぶとの推計もある。これからも指数関数的に増えていく。恐らく将来は自分もその一員に加わることになるはずだ。利根川先生、研究を加速してと言わざるを得ない。