プロ棋士の二歩

1年を通して見続けているテレビ番組がある。毎日曜日の午前に放送されるNHK杯テレビ将棋トーナメントだ。毎年4月に始まり3月で終了する。将棋界のトップレベルの棋士が競い合う早指し将棋なので、高度な指し回しであるのにテンポが速く面白い。今日は準決勝戦。行方8段と橋本8段の対戦で決勝進出をかけた大一番だ。行方8段の先手2六歩で始まった。中盤の細かい指し回しが功を奏し行方8段が優位に立っているように見えた。橋本8段は劣勢挽回の為か、敵陣の6七に歩を垂らした。どのように反撃するのか意味不明な歩だった。何か違和感があった。変な予感がした。敗着となる一手になるかもしれないと感じた。将棋が中盤から終盤にさしかけた時、行方8段の6四金に対し秒読みギリギリで橋本8段が6三に歩を打った。打った瞬間に橋本8段は声を上げて頭を抱えてしまった。6七に歩があるのに6三に歩を打った。二歩なのだ。二歩は禁じ手で即負けになる。縁台将棋では二歩はよくあることだが、トップレベルの棋士が二歩を打つのは珍しい。だがトップレベルの棋士と言えども人間だ。人間は間違いを犯す動物だから致し方ない。しかしそれにしても何故6七歩だったのだろうか。敗着は6三歩だが、隠れた敗因は6七歩に思えてならない。未だに6七歩が頭から離れない。だから将棋は面白い。