負ける方に賭ける賭け

コートに行くと女性のテニス仲間が「ホーキング博士が亡くなったのね」と言う。宇宙物理とは縁遠そうな女性がホーキング博士を知っていることに意外な感じがした。きっと理論物理学者としてではなく「車椅子の学者」として知っていたのだろう。何を隠そう、自分も最初は「車椅子の学者」として知った。今から30年前の頃だと思う。博士の「ホーキング、宇宙を語る」が出版されたのがきっかけだ。博士は立派な業績を残したが、長生きしたことでも有名だ。ALSという難病を患い、寿命は発症から5年程度と言われていたが、奇跡的にその後50年も長生きをした。ホーキング博士といえば、ブラックホール研究が有名だ。負ける方に賭ける逸話もある。博士の研究で、はくちょう座にブラックホールが存在することがほぼ確実になった時、博士は研究仲間と賭けをして何と「ブラックホールは存在しない」方に賭けた。そして負けた。博士の考え方はこうだ。今まで沢山のブラックホール研究をしてきた。もし、存在しないことが明らかになればすべてが無駄になってしまう。ブラックホールが存在しないほうに賭けておけば、少なくとも賭けには勝ったという慰めを得ることが出来るから。よくよく考えてみると、この考え方は面白い。もし、勝つ方に賭けて勝っていたらどうだろう。きっと自分の研究成果を誇るドヤ顔の自分が想像出来る。何とも品が無い。でも、負けた方に賭けて負けたら、相手は喜ぶ。相手も自分の研究成果を祝ってくれる。喜びは倍になる。勿論研究成果の喜びは極めて大きく、賭けのことなど吹いて消える存在になる。頭の良い人は色々考えるものだ。