本当に命を守るためなのか?

巨大防潮堤計画が着々と進行している。岩手・宮城・福島3県の沿岸を総延長400kmにわたってコンクリート堤防で覆う総事業費約8500億円の「万里の堤防」計画だ。ところが、各地で住民の反対運動が起きているようだ。硯の生産やホタテ養殖で有名な石巻市雄勝町では、130億円をかけて高さ10m、長さ3.5kmの防潮堤が築かれようとしている。だが住民は高台に移転し防潮堤の中に住む人は殆んどいない。海と陸が切り離されてしまえば観光客も来なくなる。防潮堤により街が衰退するのは確実だ。でも住民の反対する声は聞き入れられず計画は進行中とのこと。大震災後に気仙沼大島をぐるりと高い防潮堤で囲む計画があった。気仙沼大島には学生だった半世紀前に行ったことがある。十八鳴浜の鳴き砂は有名で日本の渚百選にも選ばれた。小田の浜海水浴場は快水浴場百選のベスト3に入ったことがある。風光明媚な島だ。防潮堤がその景観の全てをぶち壊し、住民は毎日高いコンクリートの擁壁を見ながら生活することになる。松島湾では、農地保護を名目に20億円かけて無人島の耕作放棄地まで防潮堤で囲う計画があるとのこと。一体巨大防潮堤で何を守ろうとしているのだろうか。被災地の防潮堤は国が方針を定め、県が計画を決めることになっている。それを国が査定し、予算はほぼ全てを国が負担する。防潮堤事業は「命を守るため」と言えば、いくらでもカネを使える打出の小槌なのだ。そもそも防潮堤計画は拙速過ぎた。まずは防災・避難計画を策定した後に防潮堤を計画すれば、このような壮大な無駄遣いかつ自然環境破壊など起こらなかったに違いない。見直しは今からでも遅くは無いはずなのだが。