啓翁桜

去年の暮れに活けた桜が、家族全員が集合する三が日に咲き始め、薄紅色が華やかで如何にも正月の雰囲気を醸し出していた。庭で摘んできた一輪の水仙の清々しさが桜とハーモニーして、早春の生け花ですと静かに主張していた。松が取れる頃この世の春とばかりに満開になり、その後は新芽の若葉も楽しめる。そしてつい先日その役目を終えた。毎年義妹が正月の挨拶代わりに義母に啓翁桜を贈ってくる。我が家はそのお裾分けを戴き自分が活けるのが恒例になっている。正月の桜とは、季節外れだが正月には合っている。啓翁桜とはどのような桜なのか興味が湧き調べてみた。ミザクラを台木にヒガンザクラを接いだところ、枝変わりとして出て来たものとある。一度眠りに入った桜の枝を40度の温湯に一時間浸漬して眠りを覚まさせ、その後温室で加温し蕾を膨らませて開花直前に出荷するようだ。昭和40年代に山形県園芸試験場が開発し、今では山形県を代表する花の一つになっているという。我が家に来た時は、細い焚き木のようなものだったが、数日で沢山の薄紅色の花を纏った桜になり、その次は手品師の如く枝の先端に新緑の若葉を出現させる。啓翁桜はまさに正月のエンターテナーといえる。