なし崩しの原子力行政

東電社長が福島原発事故の5年後に、当時の官邸から炉心溶融の隠蔽を指示されていたことを認めたのは記憶に新しいが、今度は原子力損害賠償・廃炉等支援機構が溶け落ちた燃料を取り出さずに石棺にすることに言及したため大騒ぎだ。福島県知事は経産省に抗議し、経産省も機構も石棺を検討していることはないと陳謝したとのこと。機構の山名理事長は、原発事故直後、東電から研究寄付金を貰い、政府・東電寄りに立って「安全」を強調していた原子力学者の1人だ。未だに学者として科学的公正中立の立場に立てない人物とみえる。溶け落ちた燃料は今後何年掛かろうとも完全に取り除く必要がある。もし石棺にしてしまえばチェルノブイリの二の舞になる。石棺は間違いなく風化し、福島は永久に放射能汚染と戦うことになる。そうなることを分かっていながら石棺を検討する経産省と機構は一体何を考えているのだろうか。技術的に難しくて莫大な費用がかかるデブリ取り出しよりも、取りあえず安価で短期間で済む石棺にして、お茶を濁して終わらせようという魂胆のようだ。一方、原子力規制委員会の田中委員長は、高浜原発の40年を超える運転延長を認可した。「部品を換えれば問題ない」とし、今後は40年超の原発再稼働が増えるとの見解を示している。原発事故後の法改正で民主党政権は、40年超の延長は極めて例外とした。これに対し田中委員長は「例外というのは政治的な発言だ」と、基本原則のなし崩しを図っている。旧民主は無責任で何も言わない。原子力行政には、国民の厳しい監視が必要だ。