真っ黒の世界

黒く見えるということは、光を吸収し反射させないということだ。だから黒さの尺度は光の吸収率で表すことが出来る。これまで最も黒い物質はベンタブラックだったが、MITと上海大学の研究チームはベンタブラックよりも10倍黒い物質を作成したと発表した。ベンタブラックの吸収率が99.965%なのに対し、新物質は99.995%。ベンタブラックVantablackとは、Vertically Aligned NanoTube Arrays(垂直に並べられたナノチューブの配列)の頭文字を並べたもの。その名の通り、ナノチューブを垂直に並べ、チューブ内を何度も屈折させ最終的には吸収されて熱として放散される仕組みだ。これが黒さの基本になっている。MIT研究チームは、ナノチューブの作り方を改良し、より黒い物質を作り出した。ところが、海にも真っ黒な深海魚がいるようだ。ミツマタヤリウオという。この深海魚は全身の吸収率が99.5%超で、ひげのような器官だけ光らせ、獲物をおびき寄せるとのこと。体表近くの細胞には黒いメラニン色素が入った袋状の小器官「メラノソーム」が光を吸収し、吸収しきれずに反射した光も、大半が隣接するメラノソームに吸収されるよう、メラノソームの大きさや形、配列が最適化されているという。原理はほぼ同じだ。ナノチューブは人類の研究の成果だと思っていたが、自然は既に達成済み。自然には敬意を払うべき。